森 博嗣
幻冬舎
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電子書籍で3冊セットを購入したので素敵な表紙を堪能できていません。
いちおう架空の人物がでているけど自伝的な小説。小説なのか?と何度も首をかしげるけど、そのたび「これは小説である」と断りが入るので小説なのです。
言葉遊びの飛躍、想像力の飛躍がぽんぽん飛び出して、何の話をしていたかわからなくなる。脱線に次ぐ脱線が最初はとにかく苦痛です(笑)
1作目の「日常」はテンポやスタイルに慣れるのがいっぱいいっぱいでちょっとした苦行だわ…と思って読み進めていましたが、須摩子さんとのなれそめあたりからめちゃめちゃ面白くなってきました。2人の関係を私は気にしていたのね……。だって彼の本読んでたら3行に1回は奥様のことですもんね!!!気になるの仕方ないよね!!
そう、須摩子さん(ささきすばるさん)といえば、森さんの別の本「半熟セミナ」の表紙のせいで、私の脳内では今敏監督アニメの「パプリカ」で再現されておりました。口調とあってると思います。パプリカかわいいです、大好きです。躁状態というか、ハレの映画というか、お話も好きです。筒井康隆だっけ?あと平沢進の主題歌も好きです。
森さんは常々「いつもいろんなことを思い浮かべている」とおっしゃっているので、この小説のような脱線を脱線が追い越すみたいな怒濤のチャンネル切り替えが、彼の頭の中でいつも起こっているんだろうと思います。なのでこの作品は、彼の思考回路を少しだけ疑似体験できるものなんじゃ?親父ギャグ連発とか、()の中をとても長くして何の補足だったかを忘れさせたりとか、でも最後にちゃんとふわっと戻ってきたり、ギャグも関連性があったりして、破綻してるように感じるけど、実際はもっと大きなまとまりになっているという仕組み。だから読み手も頭の中のスケールを大きくして読まなきゃいけないんですね。そういう訓練に最適です。テンポに慣れたらゲラゲラ笑えるとてもたのしい読みものでありました。
特に「なにをかいわんや」「あにはからんや」あたりの古い言い回しの気に入りようがツボにはいってしまいました。私も密かに言葉の響き面白いよな…と思っていたので執拗に繰り返してくれて嬉しかったです。
そして私が強くマーカーをひいた(といってもipad上だけども)のは、水柿君の小説があたってお金持ちになったときの須摩子さんの描写です。
貧乏だったときの「コーヒー代も入ってない」でホロリとし、夫が趣味に使う金額は増えているのに「もっと節約しなきゃ」と夫に言われてしまうところで歯ぎしりし…その辺で気づいたけど、その描写をしているのも夫の森さんなんだよなあと思うと、「貧乏だったころの大変そうだった奥様」の姿をずっと記憶してらしたんですね……夫婦愛……と勝手にほくほくするのであります。
関係ないけどお金持ちになったあとの「印税が入りすぎてたまに記帳させたら3冊になって返ってきたりした」ってとこもマーカーが。確定申告大変そう。
あとあと、須摩子さんが7人目のガールフレンド、だとか、1人でいる方がすきといいつつ合コンのセッティング役をそつなくこなすだとか、森さんはどう考えても人見知りじゃないし、こつこつ趣味を極めるギークでありながらリア充という、すごい存在なのだと確信しました。